本研究では、非晶質Si-N系材料について原子レベルのネットワーク構造とその量子構造を明らかにし、この材料の有する超高温安定性および高温強度の起源を解明することにより分子設計指針を得ようとするものである。平成15年において得られた研究成果および新たな知見についてまとめると以下のようになる。 (1)経験的ポテンシャル関数に基づく分子動力学法で得られた非晶質Si-N構造モデルに基づき、第一原理擬ポテンシャル法について基礎的検討を行った。構造モデルの構築に当たって、幾つかの初期構造を設定し第一原理計算を行ったが、電子密度の収束状況および得られる全エネルギーは初期構築モデルおよび使用したポテンシャルモデルに依存することが判明した。これは非晶質中に存在する結合欠損(ダングリングボンド)数が異なり、さらには結合欠損近傍では原子間距離および結合角度が複雑であるためと予測される。 (2)非晶質構造中には数多くの点欠陥や結合欠損が存在するため、本研究で用いている第一原理計算手法において、欠陥の形成エネルギーや局所的原子緩和についての定量的精度に注意する必要がある。そこで予備的検討として代表的な酸化物セラミックスの幾つかについて原子空孔や格子間原子の形成エネルギーを算出し、実験との比較検討を行った。その結果、現手法は定量的に実験結果をよく再現できるものであることが判明した。よって本研究課題の中心となる非晶質中の局所的欠陥構造についても十分な精度で計算可能であることが推察できた。
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