一般に酸素など活性な気体を含む環境中での金属材料の疲労き裂伝播速度は、真空中と比較して、高いことが知られている。希ガスなど不活性な気体は、一般に鉄鋼材料などにおいて疲労き裂進展に影響を与えない、すなわち真空中での疲労き裂進展挙動と同じ挙動を示すと言われてきた。しかし申請者は、純Tiにおいて、希ガス中での疲労き裂進展速度が真空中の場合と比較して高いこと、破面形態が異なること、および希ガスがTiの繰返し塑性域内に侵入することを明らかにしている。これは従来の疲労き裂伝播に対する環境気体の吸着メカニズムでは説明できない。この原因としては、Tiが化学的活性の高い金属であること、あるいは、結晶構造がHCP構造であることなどが考えられる。しかし、従来希ガスは真空環境の代用として使用されていることが多く、希ガス環境中での疲労挙動と真空環境中での疲労挙動を詳細に比較した研究はほとんどない。 本研究では、希ガスが金属の疲労き裂伝播に影響を与えるメカニズムを明らかにすることを目的とし、異なった結晶構造を持つチタン合金を用いて、大気中、希ガス中および真空中で疲労き裂伝播試験を行った。 その結果、BCC構造を持つβ-Ti合金では、希ガス中および真空中での疲労き裂伝播速度には優位な差は見られなかった。ところが、HCP構造とBCC構造の2相合金である(α+β)-Ti合金では、希ガス中の疲労き裂伝播速度は、大気中の伝播速度よりも低く、真空中の伝播速度よりも高い値であった。以前の研究で、HCP構造を持つα-Tiでは、希ガス中の疲労き裂伝播速度は、真空中の値よりも大きく、大気中の値とほぼ同じであった。以上のことから、真空中に比べて希ガス中で疲労き裂伝播速度が大きくなる原因は、Tiの持つ高い化学的活性が原因ではなく、結晶構造に関連していることが示唆された。
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