研究概要 |
一般に,超弾性の発現にはマルテンサイト変態が必要である.ところが,Fe_3Al単結晶ではマルテンサイト変態を生じないにも関わらず良好な超弾性が発現する.このFe_3Al化学量論組成付近の相構成は非常に複雑であり,その超弾性挙動は合金組成の影響を強く受けると考えられる.本研究では,Fe_3Al単結晶の超弾性挙動に及ぼす合金組成の影響について,規則ドメイン構造に注目して調べることを目的とした. まずFe-23at%Al, Fe-28at%Al, Fe-40at%Alの組成を有する母合金をアーク溶解し,得られたインゴットを光学式浮遊帯域溶融法(FZ法)により作製した.同手法を用いることで,欠陥の少ない良質な結晶が得られた.次に,これら結晶を1100℃で48h均質化焼鈍した後,80℃/hの冷却速度で徐冷した.その結果,Fe-28at%AlならびにFe-40atAl単結晶では超弾性を全く示さないのに対し,Fe-23at%Al単結晶では,5%の歪が除荷時に完全回復する巨大な超弾性が発現した.この超弾性を示す場合,結晶中では超部分転位が逆異相境界(APB)を引き摺りながら単独で運動していた.したがって,このAPBが除荷時に転位を引き戻すことで超弾性が発現しており,Fe-Al合金における超弾性はマルテンサイト変態とは無関係であることが明らかとなった.さらに,このFe-23at%Al単結晶を350℃以上の温度で熱処理すると形状回復能が低下した.その原因について,同結晶の規則ドメイン構造を電子顕微鏡にて観察した結果,80℃/hにて徐冷したFe-23at%Al単結晶には,50nm以下の非常に微細なドメインが発達しているのに対し,350℃以上で焼鈍すると,そのドメインサイズが増加していた.したがって,規則ドメイン構造の微細化が,Fe-Al超弾性合金における巨大な形状回復に繋がることがわかった.
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