摩擦攪拌接合は、摩擦を利用した固相突合せ接合法であり、開発から十数年で大型輸送用機器の製造などに広く利用されている。しかし、近年、接合部の品質管理上、好ましくない接合欠陥"kissing bond"の存在が注目されている。この欠陥はエッチングを行った接合部底部に現れるラインであり、エッチングを行う前の接合部断面上では確認することができないという特徴を有する。このような特徴ゆえ"kissing bond"の意味および判定基準が不鮮明であるとの指摘が多く、"kissing bond"の材料組織学的な特徴とその形成機構の解明が急務となっていた。そこで、これらに関する基礎的知見を得るため、本年度は、接合部の裏曲げ試験結果と接合条件ならびに光学顕微鏡組織との関連性について調べた。まず、さまざまな接合条件を用いて1050Al合金に対し摩擦攪拌接合を試みた。その結果、広い条件範囲で摩擦攪拌接合が可能であり、接合部の断面観察ならびに浸透探傷法により全ての接合部が未接合欠陥を有していないことが確認できた。未接合欠陥の存在しない接合部断面に対してエッチングを行った結果、初期突合せ面上の酸化皮膜に起因したジグザグのラインがほぼ全ての接合部断面において確認された。その後、接合部に対して裏曲げ試験を行った結果、ジグザグのラインの底部より割れが進展するものとしないものが確認され、接合中の熱影響が少なくなるサンプルほど割れやすくなるという傾向が得られた。しかしながら、これらの違いを光学顕微鏡レベルの組織観察、によって明らかにすることはできなかったため、TEMによるナノレベルでの組織解析を行うべく、サンプルをFIBにて作製することを試みている。
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