研究概要 |
半導体製造プロセスを用いてシリコン基板に微細流路を形成し、微量試料溶液からの成分分析を行うマイクロ流体デバイスの創製を目的に研究を行った。昨年度までに、ナノメートルオーダーの深溝溝表面へ、絶縁性に優れた熱酸化膜の作製技術について検討を行った。,その結果、バイオ分子認識チップとして用いるに十分な耐圧特性が得られる絶縁膜としては、窒化膜が酸化膜より優れることが分かった。そこで今年度は、シリコン基板に、CVD法を用いて酸化膜/窒化膜の複合酸化膜を作製し、この酸化膜に、ウエットおよびドライエッチング法により、深さ50nm、流路幅250nmのナノ流路を形成し、シリコン基板裏面からの電圧印加により、流路内を流れる電流特性の評価を行った。シリコン基板裏面からのゲート電圧印加により、ナノ流路内を流れる電流値は、負のバイアスの印加(0V〜25V)に、より徐々に増大した。また、正のバイアスの印加では、電流値は減少した。これは、流路内壁面のゼータ電位変化に対応し、ゲート電圧が負に大きい場合は、電気浸透流による流れが支配的で電流値が増大し、逆に正のゲート電圧印加では、従来酸化膜表面のゼータ電位は、-60mVであるため、その値がゼロに近付き、電気浸透流による流速が減少したことにより電流値の減少が認められたと考察できる。ゼータ電位の変化により電流値の変化が引き起こされたことは、流体シミュレーションを用いた結果からも確かめることができた。さらに、ナノ流路内を流れる電流値は、例えば電解質イオンのような電荷をもつ物質の性質により非常に敏感であることが、実験結果およびシミュレーションより明らかとなった。つまり、バイオ分子などの、よりイオン性の高い物質を含む水溶液を用いた流体制御を、界面のゼータ電位を制御することにより行う場合は、狭ギャップにすることが必要であることも明らかとなった。これらの成果は、ナノギャップ流路をもるバイオ分子認識デバイスにおいて設計指針を示すものである。
|