研究概要 |
まず,Thermo-Calcを用いて本合金の基本組成となるFe-5%Cr-5%Mn-V-C合金の状態図を作成し,多量の共晶MC炭化物が基地中に分散し,かつ,不安定化熱処理温度で基地がオーステナイトになる組成(Fe-5%Cr-5Mn-10%V-2%C)を見いだした.この組成を用いて作製した試料は,オーステナイト中に共晶MC炭化物と僅かなM_7C_3が分散した組織であり,さらにNb, Tiを添加することで,炭化物は共晶MCのみでその晶出量は約30%に上昇し,形状は粒状に変化することを明らかにした.熱処理実験では,いずれの試料においても焼入れ温度が1323〜1373Kで最高硬さを示し,また,焼戻し実験においても723〜823Kで焼戻し二次硬化を示した.したがって,この組成の範囲内ではThermo-Calcデータベースの修正無しに,十分活用できることが明確になった. これらの試料を用いて,曲げ強度,摩耗試験の評価を行った結果,曲げ強度は,高クロム鋳鉄(2.7%C-24%Cr)より高い強度を示した.これは,高クロム鋳鉄は連続した共晶M_7C_3炭化物であるのに対して,本組成試料は共晶MCが棒状または粒状に分散し,き裂進展の抑制がなされているためである.一方,摩耗試験では,高クロム鋳鉄と比較して耐摩耗性が低く,この場合,基地部が優先的に摩耗していき,高硬度であるMC炭化物を拘束しきれずにMC炭化物共に削り取られることが明らかになった. 焼入れ温度1323Kにおけるオーステナイト中のC濃度をThemo-Calcで計算したところ,0.1mass%以下であり,あまり高い硬度が得られなかった.基地硬度を上昇させるため,合金元素を変化させて合金を作製したところ,炭化物量は16.5%と低下したが,焼入れ硬さも806HV50に向上し,強度および耐摩耗性が向上すると考えられる.
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