従来のプラント運転支援システムは、プラント側の状態のみをもとに動作するものが主であった。これに対して本研究では、プラント運転を人であるオペレータと機械である制御装置およびプロセスの3つの要素からなる複合システムとしてとらえ、人間(オペレータ)側とプロセス・制御装置側からの二つの状態モニタリングを融合させた運転支援システムの開発を目指す。前年度は、複数の生理信号を併用して人間の論理思考状態を推定する方法を検討し、有効な思考状態推定モデルを提案した。本年度は、プロセス・制御装置側の状態をモニタリング(以下、プロセスモニタリングと呼ぶ)する新しい手法の開発に取り組んだ。プロセスモニタリングを行うには、物理・化学法則をもとにしたモデルか、もしくは過去の運転データをもとにした経験モデルを作成し利用する必要がある。今回、実プラントの現場において、精度のよい物理・化学モデルを作成するのは困難との立場から、経験モデルを利用することにした。経験モデルの作成において確率過程モデルを用いる方法を開発した。開発した手法を使って、バッチ反応器の状態モニタリングのシミュレーション実験を行ったところ、高い精度で異常検出および異常診断が可能なことが確認できた。従来の経験モデルを用いるプロセスモニタリング手法では、バッチプロセスのように、異なる長さの時系列データを持つプロセスのモニタリングが難しかったが、開発手法では容易に適用可能という長所をもつ。また、複雑な物理・化学モデルを必要としないため、プラント運手の実現場でも利用しやすい。このため、今回開発した手法は、今後の実用化が有望な手法と期待できる。
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