本研究は、中温度領域(200-300℃)で動作可能な固体電解質型燃料電池の実現化を目指し、プロトン導電性無機材料とセラミクスの混合体による複合電解質膜の開発を日的とした。硫酸水素セシウムと多孔質シリカ粒子(CHS/silica)またはリン酸二水素セシウムと多孔質シリカ粒子(CDP/silica)から構成される複合材料を検討し、本年度はプロトン導電率のさらに高い値の実現化のために、合成法の検討を中心に研究を行った。合成法は、1)粒子を機械的に混合する「固相混合法」、2)材料を水に件濁さ乾燥させて試料を得る「蒸発乾固法」によって行った。CHS、CDP共にシリカ粒子と混合することによって、単体と比較してそれらの導電率が上昇した。また、CHS/silicaおよびCDP/si1ica共に、機械混合法に比べ蒸発乾固法によって作成した試料の方が、特に低温相において導電率の上昇が大きいことがわかった。CHS/silicaに関しては、蒸発乾固法による導電率の上昇は著しく、80℃から140℃の低温領域において、導電率は単体のそれに比べて3桁以上高い値を示した。以上の現象は、試料の粉末X線回折およびラマン分光の測定結果から以下のように推察した。蒸発乾固法により、プロトン導電材料であるCHSとCDPがシリカ粒子の細孔内に浸透する。浸透したプロトン導電材料の結晶構造が崩れ、プロトン導電材料は細孔中で微結晶化もしくはアモルファス化する。この無秩序化した結晶相がプロトン拡散を促進し、その結果、全体の導電率増加が観測されたと考えた。プロトン導電は、結晶内の硫酸イオンやリン酸イオンの束縛回転運動と密接な関係があると考えられている。ラマンスペクトル線形の温度変化から、シリカ多孔質内の無秩序化した結晶相では、より低温から硫酸イオンやリン酸イオンの束縛回転運動が誘起され、プロトン導電率が上昇したと考えられる。
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