感温性膜を利用した新しい水処理システムを開発するため、本年度は、プラズマグラフト重合法を利用したN-isopropylacrylamide (NIPAM)重合膜の作製、重合膜の特性(温度応答性)評価、NIPAMの相転移現象を利用した洗浄効果の確認の三点を主な検討項目とした。まず、ポリエチレン多孔基材を利用してモノマー濃度および重合時間が重合量に及ぼす影響を検討した結果、これらの条件によって重合量が制御できることが明らかとなった。またFT-IR分析により、膜断面方向の重合部位の制御も可能であることが示唆された。なお、基材の透水性は水の粘性によって支配されるのに対し、重合膜の透水性はNIPAMの相転移温度(約32℃)付近で著しく変化したことから、NIPAM重合膜が温度応答性を有することが確認された。さらに、重合量の異なるいくつかの膜を利用して懸濁液濾過実験と洗浄実験(逆洗処理)を行い、洗浄効果に及ぼす水温の影響を検討した。モデル懸濁液にはラテックス粒子、シリカ粒子、タンパク質(アルブミン)等を利用した。その結果、物質が膜表面に堆積する場合は水温の影響は生じないのに対し、膜内部が汚染される場合は水温によって洗浄効果に変化が生じ、従来の洗浄法では困難とされる内部汚染物質の洗浄に感温性膜が有効であることが明らかとなった。ただし、高重合量の膜では濾過速度(水処理の効率)の低下が大きいため、処理効率および洗浄効率の両面からシステムに適した感温性膜の設計が課題である。
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