懸濁物質によるろ過膜の汚染はろ過技術における最大の問題点である。そこで本研究では、多孔基材の表面をN-isopropylacrylamide(NIPAM)で覆った感温性膜を作製し、NIPAMの相転移現象に基づいて水温変化で汚染膜を洗浄できる新規水処理システムを提案している。これまでの研究では、製膜条件によって任意の感温性ろ過膜を作製できること、NIPAMの下限臨界溶解温度(約32℃)を境にして水温を上下させることで界面活性剤やタンパク質等の膜の汚染原因物質が容易に取り除けることを明らかにしてきた。本年度は、プラズマグラフト重合法により作製した中空糸状感温性ろ過膜を利用し、操作方法が膜性能の回復率に及ぼす影響について検討した。モデルタンパク質を用いて汚染膜を作製し水温変化実験を行ったところ、基材膜では2〜3割程度の回復率であったのに対し、感温性膜では9割程度の高い回復率を示した。薬品洗浄と比較したところ同程度の回復率であったことから、水温変化のみで汚染膜の洗浄が可能となる本水処理システムの有効性が確認できた。さらに、システムの処理効率を向上させるため汚染抑制効果が期待される親水的な表面状態でろ過を行ったところ予想通りの結果が得られたが、水温変化による回復率は上記に比べ低いものであった。これはタンパク質の吸着状態に違いが生じたためと推測された。また、洗浄時の流束を増加させることで回復率は向上する傾向を示した。
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