膜タンパク質は生体内のエネルギー生産・情報伝達といった生命維持活動を担っている。我々は光合成明反応における要の反応である光誘起電子移動反応を行う光合成反応中心のX線結晶構造解析から耐熱菌由来の反応中心には常温菌由来の反応中心には存在しない正電荷アミノ酸残基が膜界面に多く存在することを見出し、膜頭部の陰イオンなどとの静電的相互作用が反応中心の耐熱化に影響を与えていることが示唆された。この正電荷アミノ酸残基(アルギニン)を常温菌由来の反応中心に変異導入することで反応中心(膜タンパク質)の耐熱性向上を図った結果、アルギンニンを導入した反応中心(変異導入反応中心)はアルギニンを導入していない反応中心(常温菌由来の野生型反応中心)に比べ活性化自由エネルギーで1.3kJ/mol安定化していることが分かった。このエネルギー値は共有結合などの相互作用形成による安定化エネルギーの値としては小さく、今回の戦略的変異導入により作製した変異反応中心は意図した比較的弱い相互作用(イオン結合または水素結合)により耐熱性を有したことを示しており、膜界面における静電的な相互作用の形成により膜タンパク質の耐熱化を図ることが可能であることが示された。 また、耐熱菌および常温菌から反応中心-アンテナ複合体を単離し、その耐熱性評価から耐熱菌由来反応中心は反応中心単独の場合よりも反応中心-アンテナ複合体の方が耐熱性を有していた。耐熱菌のアンテナ錯体の膜界面には負電荷を持ったアミノ酸残基(アスパラギン酸)が存在することから、反応中心とのイオン結合形成が可能であることが明らかとなり、ペプチド間の静電的相互作用も膜タンパク質の耐熱化に寄与していることが強く示唆される結果となった。
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