本研究では、脂質ベシクル(リポソーム)-酵素複合体であるナノリアクターを調製して機能性生体触媒として実用化するための技術開発を行うことを目的としている。今年度は、1.リポソームにグルコースオキシダーゼを封入してナノリアクターを調製し、2.酵素封入リポソームの安定性、活性等の諸特性を調べるとともに、3.固定化酵素封入リポソームの調製と実用的なバイオリアクターにおける性能の評価を行った。 1では、酵素を溶解した緩衝液で乾燥脂質膜を水和して封入効率を向上させるための凍結融解処理後、押出し法により粒径約100nmの酵素封入リポソームを調製した。リポソーム外水相の酵素はゲルろ過で分離した。本方法により効率よく酵素封入リポソームを調製・精製できた。2では、酵素封入リポソームの保存安定性、酵素活性及び膜流動性等の特性を評価した結果、酵素は失活することなくリポソーム内に安定に封入されることがわかった。3では、酵素を封入したリポソーム膜にアミノ基を含有する脂質を混合して、キトサンのアミノ基にグルタルデヒドを介して共有結合させた。脂質膜中のアミノ基とコレステロール含有量及びリポソーム径の最適化により、酵素封入リポソームを高効率に固定化できた。さらに、小型外部循環式エアリフト型気泡塔を製作して固定化酵素封入リポソームを生体触媒とするグルコースの空気酸化によるグルコン酸の生成反応を検討した。その結果、固定化リポソーム内の酵素は担体に直接固定化された従来型の固定化酵素に比べて基質に対する脂質膜の透過抵抗のため反応性は低いが酵素の至適温度、気泡塔内の通気条件下及び反応時において優れた安定性を有しバイオリアクター内で繰り返し使用できた。 次年度では、リポソームに膜タンパク質及び反応中に生成して酵素活性を阻害する過酸化水素の分解触媒であるカタラーゼを組込んでリポソーム内封入酵素の反応性と安定性の改善を試みる。
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