近年、色素吸着したポーラスナノ構造を有するTiO_2太陽電池の研究が注目されている。しかし、ナノ構造TiO_2電極内での電子移動や、増感剤からTiO_2への電子・エネルギー移動などのメカニズムはまだ十分にわかっていないのは現状である。また、色素増感TiO_2太陽電池の変換効率をさらに向上させるために、新しい増感剤と新規なナノ構造電極の開発は重要である。そこで、今年度の一つの研究内容として以下のような研究を行った。まず、自己組織化によるナノチューブとナノワイヤを有する新規なナノ構造のTiO_2電極の作製を試みた。すでに確実にTiO_2ナノチューブとナノワイヤを作製できる条件を見つけた。TEM観察よりナノチューブとナノワイヤ、また、XRDと電子回折よりアナターセ型TiO_2であることが確認できた。次に、従来の色素の代わりに、CdSe半導体量子ドットを増感剤として吸着し、光音響法による光吸収および光化学電流の測定を行った。CdSe量子ドットによる分光増感が確認され、TiO_2電極の厚さの増加とともにIPCE(光電流変換量子効率)の値が大きくなることを見出した。TiO_2電極の厚さは約3μmの場合では、CdSe量子ドットの分光増感によって可視光領域でIPCEの値が最高45%になることを発見した。このIPCE値は従来のナノ粒子で作製したTiO_2電極(CdSe量子ドットの分光増感)で得られた値(最高35%)より大きいことが分かった。さらに、フェムト秒過渡回折格子法(東京大学大学院新領域創成科学研究科物質系専攻・澤田研究室と共同研究)を用いて、CdSe量子ドット吸着したTiO_2電極における無輻射遷移過程を測定したところ、3つの高速緩和過程が存在することを見出した。2psの速い応答はCdSe量子ドット内で励起されたホールが界面準位にトラップされることに対応し、数10psの応答は励起電子の再結合やTiO_2への移動プロセスに対応すると考えられる。さらに、nsオーダーに見られる応答は熱拡散プロセスに対応すると考えられる。量子ドットにおける光励起電子とホールの緩和プロセスを分離して測定できたのは、本研究のユニークな特色である。さらに、サイズの小さいCdSe量子ドットから電子がより速くTiO_2へ移動することを発見した。
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