研究概要 |
シクロデキストリン(CD)の環骨格を構成するα-1,4グルコシド結合の一つをβ-1,4グルコシド結合に変換した新しい環骨格変換CDを合成し、その包接能について検討した。このβ-1,4グルコシド結合をもつCD誘導体の合成は、完全メチル化α-またはβ-CDのグルコシド結合の一点開裂反応と続くトリクロロアセトイミデート中間体を経る再環化反応により行った。まず、完全メチル化α-またはβ-CDを30%過塩素酸水溶液中、室温で撹拌することにより、そのグルコシド結合の一箇所のみが開裂した直鎖オリゴ糖誘導体を得た。これとトリクロロアセトニトリルを炭酸セシウム存在下で反応させてトリクロロアセトイミデートへと誘導し、続いて三フッ化ホウ素を酸触媒に用いて分子内環化させることにより目的とするCD誘導体を合成した。得られたホスト分子のアノマープロトンの^1H NMRシグナルは、それらが単一のダブレットピークとして観測された完全メチル化α-またはβ-CDの場合とは異なり、5本あるいは7本のシグナルに分離して観測され、α-1,4結合からβ-1,4結合への変換により分子の対称性が低下することがわかった。これらのホスト分子のD_2O溶液に、ρ-またはm-ニトロ安息香酸ナトリウム(PNBまたはMNB)を添加すると、ホスト分子のアノマープロトンのNMRシグナルが高磁場シフトし、芳香族ゲスト分子がホスト分子の空孔内に包接されることが明らかとなった。β-1,4結合をもつα-CD誘導体のPNBまたはMNBに対する包接能は対応する完全メチル化α-CDの場合よりも低下したのに対し、β-1,4結合をもつβ-CD誘導体ではPNBに対しては対応する完全メチル化β-CDと同等の、m-体に対してはそれよりも高い包接能を示すことがわかった。興味深いことに、完全メチル化α-ならびにβ-CDはρ-体選択性を示したのに対し、β-1,4結合をもつCD誘導体はm-体選択性を示し、α-1,4結合からβ-1,4結合への変換によりゲスト選択性が逆転するという興味深い知見が得られた。
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