近年、低温で溶融する塩(イオン性液体)が、環境に負荷をかけない溶媒として、各方面から脚光を浴びている。ジアルキルイミダゾリウム塩は、現在最も精力的に研究されているイオン性液体の一つであるが、本研究では、イミダゾール環が置換基によってはプロキラル面を持っており、面のどちらかにストラップをかけてしまえばキラルになる、ということに注目した.このアプローチにより、余分な官能基を持つ不斉部位を導入することなく(=塩の高融点化を防ぎつつ)、3次元的な不斉空間を構築できる。 合成は以下のように行った。種々のイミダゾール類に対し、水素化ナトリウムおよびジブロモアルカンを作用させ、モノアルキル化イミダゾールを得た。続いて、得られたモノアルキル化イミダゾールを、高希釈条件下、加熱することでイミダゾールの四級化反応を行い、目的であるシクロファン型イミダゾリウム塩を得た(収率〜40%、2段階)。2段階目の環化反応の速度および収率は、架橋鎖の鎖長に大きく依存した。シクロファン型の面不斉を持つ化合物において、面を経由したストラップのフリップ運動はラセミ化に対応する.これを防ぐ目的で、^1H-NMRの検討により、イミダゾリウム2位にメチル基を導入したところ、上記のフリップ運動が効果的に抑制されていることが分かった。 続いて、塩の融点を下げる目的で、得られたイミダゾリウム臭素化物のアニオン交換を、定法に従って行った。臭素アニオンとスルフォニウムイミドアニオンとの交換は効率よく進行し、対応する塩を高収率で与えた。得られた塩の融点を測定したところ、シクロファン型のイミダゾリウム塩は、一般のジアルキルイミダゾリウム塩に比べ、高い融点を示すことが分かった。しかしながら、イミダゾリウム2位と4位にメチル基を導入した、対称性の低い塩の場合、対象な塩に比べ融点は低く、アニオンの選択次第では、室温より低い融点を示すものもあった。 上記のように調製された面不斉イオン性液体の、キラル溶媒としてのポテンシャルを調べたところ、^1H-NMRの測定において、種々の光学活性なアニオンとの間で、ジアステレオメリックな相互作用が観察された。
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