研究概要 |
近年、低温で溶融する塩(イオン性液体)が、環境に負荷をかけない溶媒として、各方面から脚光を浴びている。ジアルキルイミダゾリウム塩は、現在最も精力的に研究されているイオン性液体の一つであるが、本研究では、イミダゾール環が置換基によってはプロキラル面を持っており、面のどちらかにストラップをかけてしまえばキラルになる、ということに注目した。このアプローチにより、余分な官能基を持つ不斉部位を導入することなく(=塩の高融点化を防ぎつつ)、3次元的な不斉空間を構築できる。昨年度までの研究により、2,4-ジメチルイミダゾールの二つの窒素原子をオリゴメチレン鎖で架橋したシクロファン型イミダゾリウム塩の合成法を確立し、これが室温溶融塩として存在することを確認した。また、光学活性なアニオンとのジアステレオメリックな相互作用を^1H-NMRで追跡可能であり、このイミダゾリウムカチオンが不斉識別能を有することを明らかにした。 そこで今年度、上記のイミダゾリウム塩に更なる相互作用点を導入することを目的とし、2,4-ジメチルイミダゾールの二つの窒素原子をオキソエチレン鎖で架橋した、擬クラウンエーテル部位を持つ面不斉イミダゾリウム塩を合成した。エーテル部位のコンホメーション効果により、このイミダゾリウム塩は極めて高い収率で生成し、またアニオンを交換することにより、室温イオン性液体が得られた。調製された面不斉イミダゾリウムのキラル識別能を検討したところ、興味深いことにランタノイド錯体のキラリティーを識別することが明らかとなった。 ここまで述べてきた面不斉イオン性液体は、いずれもラセミ体として合成されるため、光学活性溶媒として利用するためには、光学分割、あるいは不斉選択的な合成が必要となる。そこで、シクロファン型イミダゾリウム塩の合成において、不斉補助基を用いることにより、面性キラリティーを制御することを試みた。L-バリン誘導体を持つ架橋鎖で、2-メチルイミダゾールの二つの窒素原子を連結したところ97:3の比で一方のジアステレオマーが優先的に生成し、再結晶により過剰の異性体が単離された。
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