研究概要 |
我々は、既にチタンテトライソプロポキシドと2当量のイソプロピルグリニャール試薬から容易に調製できる2価チタン錯体を、2,7-あるいは2,8-エンイン-1-オール誘導体に作用させると、分子内環化反応が進行し、収率良くシクロペンタンあるいはシクロヘキサン化合物が得られることを報告している。本反応での出発原料および生成物を考えると、従来天然物合成にしばしば利用されているメタローエン反応と同一であることから、反応機構は異なるものの、形式的なメタローエン反応(メタローエン等価反応)と言うことができる。すでに本反応は幾つかの研究グループにより、天然物合成の際に用いられている。 平成14年度は、2価チタン錯体を利用した、このメタローエン等価反応による、光学活性な5もしくは6員環炭素環または複素環の構築研究を行った。すなわち、光学活性な第2級2,7-エンイン-1-オールである(S)-4(E)-デカン-9-イン-3-オールのジメチルリン酸エステルに対し2価チタン錯体を反応させ、加水分解したところ、分子内環化反応によりシクロペンタン誘導体が89%の収率で得られた。生成物の光学純度を調べたところ94%eeであることが判明した。さらに興味深いことに、原料の幾何異性体である(S)-4(Z)-デカン-9-イン-3-オールのシリルエーテル体を同条件下で反応させると、リン酸エステル体から得られたシクロペンタン誘導体とは立体配置の異なる生成物が99%eeの鏡像体過剰率で得られた。また本反応は複素環合成への適応が可能であり、高い光学純度を持つピロリジンあるいはピペリジン類が良好な収率で合成できた。本反応は環化後に存在するチタン-炭素結合を利用し、更なる炭素鎖伸長や官能基化が可能であることから、効率的な光学活性な炭素環ならびに複素環の合成手法を提供するものであると考えている。
|