(1)タンパク質の構造解析に用いられる"クロスリンク剤"に着目し、スペーサー部にアセチレンユニットや光異性化分子(スピロピラン)を導入した新規ペプチドクロスリンク剤を開発した。これらクロスリンク剤とペプチド鎖に存在するLysの側鎖アミノ基を反応させることで、架橋ペプチドとした。アセチレンユニットを含むクロスリンク剤で架橋されたペプチドは、もとのペプチドに比べ、四倍強のα-ヘリックス含有率を示した(5℃において)。またこの架橋ペプチドのα-ヘリックス構造は、架橋されていない元のペプチドのものに比べ熱に対して安定性を示した。 (2)ペプチド鎖の二次構造を光で制御するために、スペーサー部位に光異性化分子であるスピロピランを導入したクロスリンク剤を開発した。スピロピランとは、紫外光照射によりメロシアニン構造へと開環異性化するフォトクロミック分子の代表例である。スピロピランが有するこの大きな構造変化を利用することにより、ペプチド二次構造を光によって制御できるのではないかと考えた。スピロピラン骨格を含むクロスリンク剤とカルボキシル・アミノ両末端にLysを有するペプチド鎖を反応させることにより、架橋ペプチド鎖を得た。この架橋ペプチド鎖内のスピロピラン骨格(環状スピロピラン)は、架橋前のスピロピラン分子(非環状スピロピラン)とは異なる光学特性を示した。非環状スピロピランは紫外光を照射することにより、メロシアニン構造へと異性化するが、環状スピロピランは暗所においてはメロシアニン構造が安定で、光照射によりスピロピランへと異性化する逆フォトクロミック特性を示した。
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