研究概要 |
複素芳香族化合物の還元は多くの有用な生理活性化合物の部分骨格となる不斉複素環骨格を構築する有用な手法である。しかし、そのような化合物は光学活性体として存在し、その中の1つの立体異性体しか有効な生理活性を示すことはない。従って、このような化合物は光学活性体として合成されるべきであり、その不斉触媒化が待望されている。しかし、複素芳香族化合物の還元の触媒として知られているものの多くは、不斉配位子による修飾が不可能な不均一系触媒であり、不斉触媒化が可能な均一系金属錯体触媒の例はほとんどなく、その不斉触媒化は困難であると考えられてきた。本研究では、複素芳香族化合物の1つであるピロールの触媒的不斉水素化についてその実現の可能性を探った。 窒素原子上を第三ブトキシカルボニル基で保護したピロールの水素化に活性を示す遷移金属錯体触媒を探索したところ、(アセチルアセトナト)(1,5-シクロオクダジエン)ロジウムとトリフェニルホスフィンから系中で発生するロジウム錯体が本水素化反応に高い触媒活性を示すことを見いだした。しかし、配位子であるトリフェニルホスフィンを種々の光学活性ホスフィン配位子に換え、2位あるいは3位に置換基を持つピロールの触媒的不斉水素化を行ったところ、残念なことに有為な不斉誘起は観測されなかった。 次に、ベンゼンに縮環したピロールであるインドールの水素化について同様に検討したところ、申請者が開発した不斉配位子PhTRAPとビス(1,5-シクロオクダジエン)ロジウムヘキサフルオロアンチモネートから調製される触媒を塩基性条件下で用いることにより、最高98%eeの光学活性インドリンを与えることを見いだした。本触媒的不斉水素化の基質適用範囲は広く、広範囲にわたる光学活性インドリンの触媒的不斉合成に利用できる。
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