従来、オレフィンの重合においては、前期遷移金属錯体が触媒として用いられてきた。最近、ある種の後期遷移金属錯体も重合活性を示すことが見出された。しかも、その場合にはエステル基やヒドロキシル基などの官能基をもつモノマーとの共重合も可能であるということが明らかとなっている。しかし、これまでに用いられてきた触媒は、ほとんどが単一の遷移金属錯体をベースにしたものであった。 本研究では、性質の大きく異なる前期遷移金属と後期遷移金属を組み合わせた複核錯体を合成し、これを高分子合成の触媒へと応用した。 ジルコニウム-ロジウム複核錯体を用いて、重合の初期段階であるアルキル化の検討を行った。アルキル化剤としてトリメチルアルミニウムを用いた場合には、ジルコノセンジクロライド部位のモノメチル化、さらに近傍の配位子との分子内メタル化反応が進行することを見出した。このジルコニウム上で進行する分子内メタル化反応は、ロジウム部位との位置関係に大きく影響され、ジアステレオ選択的な反応であることが分かった。この分子内メタル化反応の機構の検討を行い、カチオン性の中間体を経由して反応が進行することが分かった。トリメチルアルミニウムはアルキル化剤としての役割に加えて、ジルコニウム上のクロロ配位子を引き抜き、カチオン種を発生させていると予想される。また、エチレンの重合において、分子内メタル化反応は触媒の失活の要因となることを明らかにした。 本研究ではさらにジルコニウム-コバルト複核錯体を合成し、これを用いて種々のモノマーの十合を試みた。その中で、CpCo(CO)_2部位をCp_2ZrCl_2と組み合わせた複核錯体が、プロピレンの重合においてCp_2ZrCl_2より高活性であることを見出した。この効果は、単核のCp_2ZrCl_2とCpCo(CO)_2を混合した系においても見られた。
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