これまでの多糖誘導体を用いたHPLC用キラル充填剤の開発は、広範囲のキラル化合物に対して高い光学分割能を有することを目的に行われてきたが、ある特定の分割したい光学異性体に対して高い不斉識別能を有するキラル充填剤を開発することもまた、今後のキラル充填剤の開発において重要である。本年度は、セルロースベンゾエート誘導体を用いたキラル充填剤が、調製条件により分割能が変化する性質に着目し、セルローストリス(4-メチルベンゾエート)(1)を用いて、菊酸エチルエステル(2)に対し高い光学分割能を有するキラル充填剤の調製条件の設定と、その調製条件の違いによる1の構造変化について検討を行った。HPLC用キラル充填剤は、種々のインプリント分子を加えた1のジクロロメタンまたはクロロホルム溶液を調製し、これを表面処理したシリカゲル上に担持し、溶媒を減圧で留去して乾燥させて調製した。得られたキラル充填剤はカラムに充填してHPLCに装着し、2の光学分割を行った。その結果、用いたインプリント分子の違いにより、得られた充填剤の2に対する光学分割能は大きく変化し、メチルベンゾエートやアセトフェノンをインプリント分子に用いたとき、高い光学分割能が得られた。また、メチルベンゾエートをインプリント分子に用いて調製した充填剤への様々な分子の吸着の強さを調べたところ、インプリント分子なしで調製した充填剤と比較すると、メチルベンゾエートとその類似体の保持時間が長くなり、これらを特異的に認識することが示された。さらに、石英板上にキャストした1の膜のCD測定をおこなったところ、インプリント分子として有効であったメチルベンゾエートを用いて調製した1のスペクトルは、インプリント分子なしで調製したものと比較するとCDパターンに違いがみられ、インプリント分子を添加することで1に何らかのコンフォメーション変化が生じていることが確認された。多糖誘導体の光学分割能を、インプリント分子を加えることで変化させることに成功し、またその識別能にも十分な耐久性があることも確かめられたことから、今後、「分けたいものを分ける」ための充填剤調製も可能になると期待される。
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