本研究では、トリプトファン残基とα-アミノイソ酪酸2残基を繰り返しユニットとする、3_<10>-ヘリックスペプチドの末端にポリエチレングリコールユニットを導入したペプチド化合物を合成し、これを脂質二分子膜中に導入することで、ヘリックスダイポールによる電場により膜透過型電子移動を促進する分子システムの構築を行う。まず、トリプトファン残基のインドール基が電子移動の光増感剤、あるいはメディエイターとして機能するかを検討するために、3つのトリプトファン残基を有する9量体ペプチドのN末端にジスルフィド基を有する化合物SST3Bを合成した。CDスペクトル測定より、SST3Bはエタノール中で3_<10>-ヘリックス構造をとることが示された。SST3Bのエタノール溶液に金基板を浸漬することにより、SST3Bの自己組織化膜(self-assembled monolayer ; SAM)を調製した。参照として、末端にのみトリプトファン残基を有し、アルキル鎖をリンカーとして有するジスルフィド化合物(SC15T)のSAMも調製した。SST3B分子の電子移動メディエイター特性を検討するため、作製したSAM基板を電子ドナー、トリエタノールアミンを含む水溶液に浸漬し、キセノンランプで光照射して光電流発生を検討した。未修飾金基板では電流応答が全くなかったのに対して、SST3B SAMでは、光照射時に明確な光アノード電流が観測された。これは、インドール基が光増感剤として作用し、水相のトリエタノールアミンから金表面への電子移動を促進していることを示している。一方、参照化合物のSC15TのSAMでは、インドール基が存在するにも関わらず光電流は観測されなかった。このことから、SST3B SAMでは、3_<10>-ヘリックス構造により、一直線上に並んだインドール基が電子メディエイターとして機能し、光電流発生を促進していることが明らかとなった。
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