研究概要 |
トリイソブチルアルミニウム-水-アセチルアセトン(1.0:0.40:0.80)触媒を用いた1,3-アンヒドロ糖誘導体の開環重合は、β-(1→3)結合のみを主鎖に持つ多糖構造を構築する唯一の方法であるが、これまでに生成した多糖の末端構造解析や正確な分子量測定は行われていなかった。そこで、2,4,6-トリ-O-ベンジル-β-D-グルコピラノース(1)の重合により得られる2,4,6-トリ-O-ベンジル-(1→3)-β-D-グルコピラナン(2)についてMALDI-TOF MS測定を行ったところ、繰り返し単位に相当する質量数432.5間隔で現れる複数のピーク系列を確認した。最もピーク強度の高い系列は432.5×n+23±1の質量数を示した。イオン化助剤としてトリフルオロ酢酸ナトリウムを用いたことから、分子イオンはナトリウム付加体として観測されることを考慮すると、末端基に相当する質量数がないということとなり、環状多糖構造が考えられる。この傾向は2を脱保護した(1→3)-β-D-グルコピラナン(3)のMALDI-TOF MSスペクトルにも認められた。これは新規な環状オリゴ糖の発見につながるものであり、今後の機能評価における解釈にも大きく関与することから、更に詳しく分析を行った。末端構造を詳細に調べるために、オリゴマー領域をSECで分取して、更にHPLCで末端構造が異なるものとの分離を検討したところ、アミノ基結合シリカゲルを充填したカラムにより2及び3の段階でそれぞれ単一の化合物とすることに成功した。しかし、それぞれの化合物をNMR測定した結果、MALDI-TOF MSにおける主要なピーク系列は環状多糖構造に由来するものではなく、還元末端が2-ヒドロキシ-D-グルカールとなったものであると判明した。MALDI-TOF MSで確認されたその他の末端構造として、トリイソブトキシ基や水酸基があり、触媒調製条件によって、それらの比率が変化することがわかった。また、新たにSEC/MALDI-MS法を分子量測定に取り入れ、2及び3の分子量を正確に求めることもできた。計画されていた分岐型(1→3)-β-D-グルコピラナン誘導体の化学合成はまだ達成されていないものの、本年度得られたこれらの知見は(1→3)-β-D-グルコピラナン誘導体の機能発現を評価する上で重要と考えられる。
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