研究概要 |
本研究は、擬一次元金属錯体を基本骨格とする分子組織性ハイドロゲルを開発し、スピン転移のような錯体特有の機能と、ゾル-ゲル転移のような高分子物性の融合をはかることを目的としている。平成14年度に、Co(II)錯体については、高温でゲル(T_d錯体)、低温でゾル(O_h錯体)の相転移を示すことを報告した(J.Am.Chem.Soc., 2004, 126, 2016掲載)。本年度は、Fe(II),Co(II)(C_<12>OC_3Trz)_3Cl_2とアルコール誘導体の相互作用ならびに,そのオルガノゲル形成,スピン転移に及ぼす効果について検討した。 Co(II)(C_<12>OC_3Trz)_3Cl_2/ラウリルアルコール(C_<12>OH)=1/1のクロロホルム溶液(1mM)は、20℃でゲルを形成した。C_<12>OHの添加に伴い、昇温'降温に伴うT_d構造の安定化が示された。一方、ラウリルブロミド(C_<12>Br)を添加してもCo(II)(C_<12>OC_3Trz)_3Cl_2単独と同様、ゲル-溶液転移が観察された。この結果は,C_<12>OHの水酸基がCo(II)(C_<12>OC_3Trz)_3Cl_2のカウンターアニオンもしくはCo(II)と相互作用して、Co(II)(C_<12>OC_3Trz)_3Cl_2の構造変化に影響を及ぼすことを意味する。 さらに、Fe(II)(C_<12>OC_3Trz)_3Cl_2とC_<12>OHをモル比1:1で混合したクロロホルム溶液から、安定なキャストフィルムを作製した.このフィルムは,20℃で528nmにLow Spin由来(^1A_1'^1T_1)の吸収を示した。一方、Fe(II)(1)_3Cl_2/C_<12>OHは、昇温'降温過程においてヒステリシスを伴うHigh Spin⇔Low Spin転移を示した。Fe(II)(C_<12>OC_3Trz)_3Cl_2単独のキャストフィルムにおいては、この現象は観測されない。この結果は,アルコールのOH基がFe(II)(1)_3Cl_2のカウンターアニオンと水素結合を形成し,相安定性を生じたことを示す.このように、Fe(II)トリアゾール錯体が高密度に固定化されたキャストフィルムを作成でき、さらに非共有結合・分子認識を用いてスピン転移におけるヒステリシスの制御に成功した.この結果は,分子情報をスピン情報に変換する新しい分子ワイヤーの開発に広く展開できよう.
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