ジャポニカ型ウルチ品種を高温下で登熟させると外観品質が低下するとともに低温登熟下に比べ粒重が10%近く低下する。これは主に胚乳におけるデンプン合成が高温で抑制されるためと考えられている。このような高温によるデンプン合成能の低下の要因についてはまだよく明らかにされていないが、インディカ型のウルチ品種では粒重の低下が軽微であることから、胚乳におけるデンプン合成の温度に対する反応には遺伝変異が存在すると推定される。生態型間でデンプン成分の温度変化を比較すると、アミロース成分の比率は高アミロースのインディカ型では登熟気温による変動が少ないのに対して、低アミロースのジャポニカ型では高温で大きく低下する。このため、アミロース合成量の多少が胚乳に蓄積されるデンプン総量を制限している可能性があると考えられる。 本年度は、ジャポニカ型品種台中65号の遺伝的背景を持つアミロース合成能の異なる4種類の準同質遺伝子系統を低温(18-22℃)及び高温(28-32℃)で登熟させ、粒重、総デンプン合成量、アミロース及びアミロペクチン合成量を比較した。その結果、アミロースを合成しないモチ系統T65wx及び高アミロース系統のT65Wx^aでは登熟気温によって総デンプン合成量は大きく変化しなかった。一方、低アミロース系統のT65Wx^b及びT65Wxx^<op>では高温区でアミロースの合成量が顕著に低下したが、アミロペクチンの合成量はむしろ増加していた。しかし、アミロペクチン合成がアミロースの減少分を完全に補償しないため、総デンプン量は高温区で減少した。これらの結果から、ジャポニカ型ウルチ品種の高温登熟下における粒重低下は、ジャポニカ型ウルチ品種が有するWx^b遺伝子の温度反応によるアミロース合成量の低下に起因し、アミロペクチン合成量は直接温度の影響を受けていないことが明らかとなった。
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