黄ダイズ種皮ではInhibitor遺伝子(以後、I遺伝子と省略)によって種皮着色が抑制されており、実際にIからiへの劣性突然変異体(以後、変異体と省略)では種皮が再び着色される。近年、I遺伝子による種皮着色抑制が色素生合成のキーエンザイムであるカルコンシンターゼをコードする遺伝子のジーンサイレンシング(以後、CHSサイレンシングと省略)による可能性が強く示唆されている。また、黄ダイズゲノムでは5'コード領域の欠落したCHS遺伝子(truncated CHS3と命名)とCHS遺伝子のひとつ(ICHS1と命名)がわずか680bpの距離を隔てて逆向きにクラスターを形成している(以後、クラスターと省略)。今まで変異体ではいずれもクラスター内から構造変異を生じていることが明らかになっており、I遺伝子とクラスターとの関係が示唆されている。本年度は以下の知見が得られた。 1.黄ダイズ品種ミヤギシロメ、系統刈系557号(CHSサイレンシングが起きている)およびそれらの変異体(CHSサイレンシングが起きていない)の各登熟段階の種子からそれぞれ種皮RNAを抽出し、CHS遺伝子プローブを用いたノーザンブロット分析を行った。その結果、黄ダイズでは25mg以下の種子から転写産物量が減少しておりCHSサイレンシングが種子形成初期から起きていることが明らかになった。 2.未解析の2つの変異体(ミヤギシロメおよび刈系584号変異体)について、クラスターの解析を行ったところ、ミヤギシロメ変異体ではクラスター内から構造変異が起きていたのに対して、刈系584号変異体は今までの変異体と異なり、クラスターはすべて残り、そのわずか32bp上流から構造変異が起きていた。したがって、クラスターの上流域にもI遺伝子発現に関与する領域の存在が示唆された。
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