本研究では、黄ダイズの種皮着色抑制機構について調査している。黄ダイズ種皮ではInhibitor遺伝子(以後、I遺伝子と省略)によって種皮着色が抑制されており、実際にIからiへの劣性突然変異体(以後、変異体と省略)では種皮が再び着色される。近年、I遺伝子による種皮着色抑制が色素生合成のキーエンザイムであるカルコンシンターゼをコードする遺伝子のジーンサイレンシング(以後、CHSサイレンシングと省略)による可能性が強く示唆されている。本年度は以下の知見が得られた。 1.ジーンサイレンシングは、Transcriptional Gene silencing (TGS)とPost-Transcriptional Gene silencing (PTGS)に分類される。黄ダイズ種皮におけるCHSサイレンシングがどちらのタイプかを調査するため、CHSサイレンシングが起きている黄ダイズ種皮およびCHSサイレンシングが解除されている変異体種皮よりそれぞれ単離核を調製し、Nuclear Run-On Transcription Assayを行った。その結果、CHSサイレンシングがPTGSであることが判明した。 2.ダイズゲノムにおいてカルコンシンターゼをコードする遺伝子(CHS)は遺伝子ファミリーを形成しており、少なくとも8つのメンバー(CHS1-CHS8)が存在する。CHSサイレンシングが解除されている変異体種皮ではどのメンバーの転写産物が存在しているか、また黄ダイズ種皮ではその転写産物量が減少しているかを定量的PCRおよびノーザンブロット分析によって調査した。その結果、変異体種皮ではCHS7およびCHS8由来の転写産物が大部分を占め、黄ダイズ種皮ではその発現量が大幅に減少していることが明らかになった。
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