本研究では、黄ダイズの種皮着色抑制機構について調査してきた。黄ダイズ種子は、I遺伝子によって種皮着色が抑制されており、実際にIからiへの劣性突然変異体(以後、変異体と省略)では種皮が再び着色される。昨年度は、I遺伝子による種皮着色抑制が色素生合成に重要な酵素であるカルコンシンターゼ(CHS)をコードする遺伝子の転写後ジーンサイレンシング(以後、PTGSと省略)によることを明らかにした。この結果の正当性をさらに裏付けるため、本年度は以下の研究を行った。すなわち、特定の植物ウイルスは感染した黄ダイズの種皮に斑紋を形成させることがあるが、興味あることにこれらの植物ウイルスはいずれもPTGSを解除するサプレッサーを作り出すことがわかっている。このことから、黄ダイズ種皮の斑紋形成は、植物ウイルス由来のサプレッサーが着色抑制にかかわるCHS遺伝子のPTGSを部分的に解除しているためではないかという仮説が考えられた。この仮説を検証するために、本研究では斑紋形成する植物ウイルスに感染した個体と非感染個体間でCHS遺伝子転写産物量の定量比較を行った。PTGSは特定の遺伝子転写産物を分解する現象であるため、PTGSの部分的な解除によって、感染個体は非感染個体に比べ、CHS遺伝子転写産物量の増加が予想される。定量比較の結果、感染個体においてCHS遺伝子転写産物量の有意な増加が見られた。以上のことから、黄ダイズの斑紋形成に関する仮説を支持する結果が得られ、黄ダイズの種皮着色抑制機構がCHS遺伝子のPTGSであることをさらに裏付けるものとなった。
|