本年度は樹上で黄熟するタイプのウメ品種‘織姫'と収穫後(落果後)に黄熟するタイプの品種‘南高'を材料に、全カロテノイド含量の増加に対応して発現の増大が認められるフィトエン合成酵素遺伝子のゲノム配列を比較した。その結果、‘南高'では3末近傍の第5イントロンで約50塩基の欠損が認められた。また、フィトエン合成酵素遺伝子の上流域及びコード領域のPCR-RFLPにより、両品種間で多型が得られた。‘織姫'ב南高'の交配個体では両親に由来する断片を併せ持つヘテロ型を示す多型が得られ、これら交配個体のカロテノイド蓄積特性を調べることによって、多型のタイプからカロテノイド蓄積特性を推察できると考えられた。即ち、フィトエン合成酵素遺伝子の上流域及びコード領域のPCR-RFLPによる分子多型を用いて果実の成熟初期からカロテノイドを蓄積し、樹上で黄熟する系統を育成段階の早期から選抜できる可能性が開けた。 また黄熟とエチレンの関わりについて、‘織姫'及び`‘南高'の果実を経時的にサンプリングして生成するエチレン量をガスクロマトグラフィーで測定したところ、`南高は樹上ではエチレンを生成せず、収穫後に著しいエチレンの生成が認められたのに対し、‘織姫'は黄熟とともにエチレン生成が樹上の果実でも行われていた。また、‘南高'の収穫後果実に対してエチレンのシグナル伝達系の阻害剤である1-メチルシクロプロペン(1-MCP)処理やプロピレン処理を行った結果、エチレン存在下でフィトエン合成酵素遺伝子の発現は増大していた。一方、1-MCP処理により、エチレン生成を抑制してもフィトエン合成酵素遺伝子の発現は無処理に比して低いもののシグナルが検出された。これらのことから、ウメ果実のフィトエン合成酵素遺伝子の発現は、エチレンの影響を受けるものの、完全にはエチレンの制御下にはないことが推測された。
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