研究概要 |
本年度は主たる解析材料の元となる両親系統の栽培イネ2種(アジアイネ:Oryza sativa L.とアフリカイネ:Oryza glaberrima Steud.)の光呼吸反応と光合成反応のエネルギー消費バランスについて葉内の炭酸ガス濃度環境を考慮に入れながら詳細な比較を行った.CO2ガス交換速度とクロロフィル蛍光反応の同時測定を行い,光化学系におけるエネルギー生産と光呼吸・光合成による消費のバランスを検討した結果,アフリカイネはアジアイネに比較してエネルギー生産レベルは同程度であるが,生産されたエネルギーの分配において光呼吸で消費する割合が小さく,光合成によるCO2固定に有利であることが明らかとなった.すなわち,真の光合成分(総CO2固定分)が大きく,光呼吸分(CO2放出分)が小さいことであり,みかけ上の光合成のエネルギー利用効率としてはかなり有利な状況であると判断された.この理由としては,蒸散が高く,気孔開度が高いことでガス拡散に優れるアフリカイネでは細胞間隙内のCO2濃度が常に高く,そのことによって光合成ならびに光呼吸の主要酵素のRubisco周辺のCO2濃度が高く,CO2/O2分圧が高く維持されているのではないかと推察された.また,光合成測定時に葉内の水分状態を急激に悪化させ,強制的に気孔を閉鎖させる実験を行ったところ,アフリカイネの気孔伝導度は常に高く保持され,気孔閉鎖がアジアイネに比較して緩慢であることが明らかとなった.そのときの光呼吸率はアフリカイネで低く推移し,葉内のCO2濃度環境と光呼吸率の関係が密接であることが確認された.以上のように栽培イネ2種の光呼吸・光合成特性が明らかとなり,来年度F_1雑種の特性を明らかにする上で有効な情報が得られた.また,今年度種間雑種交配を行い,材料となるF_1種子を得ることに成功している.
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