研究概要 |
ツツジ属植物において,節間など比較的遠縁な種どうしを葉緑体DNAマーカーにより簡便に識別する方法は報告されているが、同一列内のような近縁な種間を識別した報告は少ない.PCR-SSCP法は,わずかな塩基配列の違いも検出できる非常に感度がよい方法であり,比較的安価な装置で容易にできることからその利用価値は高い.本年度は,ツツジ属植物において比較的近縁な種間においても多型が検出できる葉緑体DNAマーカーの構築を目的として,PCR-SSCP法を検討した.5つの領域すべてにおいてDNAが増幅され,その断片長はPCR-SSCP法に利用可能であるおよそ250bp〜600bpであった.電気泳動の結果,プライマーによって3〜7つの多型が検出された.落葉性ツツジと常緑性ツツジとの間では,R. weyrichiiで見られたtrnLのパターンCおよびatpFのパターンAを除き,共通するバンドパターンはなかった.落葉性ツツジ種間で比較すると,trnGを除く4プライマーで各種に特異的な多型が検出された.一方,常緑性ツツジでは,特異的なパターンが,trnL領域でR. transiens(パターンB)に,trnGおよびrps16領域でR. serpyllifolium(パターンBおよびパターンC, D)に,trnFでR. kaempferi var. macrogemma(パターンC)に認められた.また,バンドパターンの中には,trnFのB, rps16のBおよびatpFのBおよびCなど2種に共通して出現するパターンもあった.特に,R. transiensに見られたtrnFのパターンBおよびatpFのパターンBは,異なる亜節のR. ripenseで確認された. 以上の結果より,ユニバーサルプライマーを用いた葉緑体DNA領域のPCR-SSCP法は,ツツジ属植物でも利用可能であり,今後,葉緑体DNAの遺伝性の調査や類縁関係の解析に有用なマーカーとなると思われた.しかし,近縁種間ではひとつも多型が検出されなかったものもあり,今回行わなかったプライマーに関しても検討する必要がある.
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