研究概要 |
本年度は,昨年度に引き続き,丘陵地の里地自然地域を対象に,特に下部谷壁斜面最下部に位置する草本植生に焦点を当てて植生調査を行った。この草本植生の位置する場所は,水田への被陰を回避するために年2,3回の頻度で行われる刈取り管理により成立しており,適湿から過湿条件への環境移行帯に当たるため,非常に高い植物多様性を維持している場所と考えられる。調査の結果,この草本植生の構成は,草原生の種だけでなく,樹林生や林縁生,さらに湿生の種から構成されており,様々な生育立地の種が共存する種多様性の高い立地であることが確認された。また,下部谷壁斜面の上部に位置する微地形配列によっても種構成は大きく異なり,丘陵地の複雑な地形構造が多様な生育立地を作り出していることがわかった。そのため下部谷壁斜面最下部の草本植生は,里地自然地域の中で最も多様性の高い立地であることが示唆された。 また,丘陵地の地形構造による植生立地の多様さを捉えるために,丘陵地の微地形単位毎に,かつ植生管理が異なる立地に土壌水分計を設置し,降雨イベントに応じた土壌水分の季節変化を明らかにした。その結果,微地形単位毎に明らかに土壌水分の変動パターンが異なり,植生管理の影響は非常に小さいことが分かった。そのため植生の立地環境に与える土壌水分の影響は,微地形単位で捉えることが必要十分であると判断できた。降雨イベントごとの水分量の変化を土層毎に解析した結果,垂直方法への水移動は比較的小さく,降雨時には表層の粗孔隙を通る早い流去が起こると考えられた。また,、土壌溶液中の硝酸態窒素含量を測定した結果,管理程度によってその濃度は大きく異なり,完全に放棄された場所で最も高く,林床管理を行っている場所で低くなった。ただ,この傾向は表層10cm程度で顕著であった。土壌水分の挙動を考えると,降雨時に表層に蓄積した硝酸態窒素が,比較的速い速度で谷底に流出すると予測される。
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