研究概要 |
本研究は,高気温ストレス条件下において野菜類の光合成を維持する生理機構として,過剰に生産された光合成産物を根から積極的に流出させ,光合成におけるフィードバック阻害が回避されるという仮説に基づいている. 本年度は,高気温条件下における炭素固定・代謝と根からの糖の流出の量的関係を明らかにすることを目的に,水耕栽培で7日間成育させたキュウリ幼植物体の成長,個葉の光合成速度,呼吸速度および栽培に用いた培養液(18リットル)の総可溶性糖含量(根からの糖流出量)を高気温(40℃)および常温(30℃)条件下で比較した.全生体重は常温下で128.03g,高温下で73.49gであった.個葉の正味光合成速度は高温下で約10%低下したが,真の光合成速度は二処理間で差がなく,高温下における正味の光合成速度の低下は呼吸速度が増加したためであり,高温下でも光合成機能は低下しないことが確認された.常温下の培養液の総グルコース,フルクトースおよびスクロース含量は,それぞれ207.72,179.46および3.6mg/18リットルであった.また,キュウリの転流糖であるオリゴ糖は検出されなかった.キュウリ個体の糖含量は0.1〜0.5mg/gFWであるが,常温下においても個体に蓄積される可溶性糖以上の糖を根から流出させることが明らかとなった.一方,高温下の培養液の総グルコースおよびフルクトース含量はそれぞれ2.3倍,2.0倍に増加した.このことは,高温ストレスによって根からの糖流出量が増加したことを示し,個体における炭素固定・代謝的なシンク・ソースバランスを良好に保つ一機構である可能性が示唆される. 現在,個体における炭素固定・代謝収支を算出するシステムを開発中である.これを用いることにより,高温下における光合成の維持機構としての根からの積極的な糖流出の役割がより明確になるものと考えられる.
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