研究概要 |
本研究は,高温下でのキュウリの光合成の維持と光合成産物の根からの滲出との関係を明らかにすることを目的とした.高温(38℃)処理によりキュウリの生長は著しく抑制されたが,光合成速度は高い値を維持した.植物体の全糖含量は,対照区(28℃)に比較して葉では高温処理区で高かったが,茎では高温処理区で著しく低下し,高温によって植物体に蓄積する糖含量が低下した.一方,培養液中の全糖含量は,対照区に比較して高温処理区で約2.5倍の値となった.これらのことから,キュウリでは,高温ストレスによって光合成産物の植物体内における蓄積が減少するとともに,光合成産物の根からの滲出が高まることが明らかとなった. 高温下での根からの糖滲出と光合成維持との関係をより明確にするために,植物体へのスクロース溶液の注入実験を行った.常温条件下でスクロースを注入すると,蒸留水を注入したものに比較して光合成速度が低下した.これは,植物体におけるスクロース蓄積により光合成のフィードバック阻害が起こったと考えられる.しかし,高温条件下においては,スクロース処理による光合成速度の低下は認められなかった.さらに高温下における培養液中に含まれる糖含量は,スクロース処理を行ったものの方が蒸留水を注入したものよりも高くなった. 以上のことから,高温下での根からの糖滲出が植物体内に余った光合成産物を積極的に排出し,光合成のフィードバック阻害を回避し,光合成を維持する生理的意義をもつことが示唆される.高温下での積極的な根からの糖滲出が根のいかなる機能変化によって起こるかを解明することが今後の課題である.
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