研究概要 |
環境紫外線(UVB:280-320nm)により調節される植物病原糸状菌の形態形成を分子レベルで解析するために、本年度は、環境紫外線の防御に重要な役割を持っていると考えられるメラニンの合成系遺伝子群に着目し、研究を行なった。はじめに、イネごま葉枯病菌からメラニン合成に関与すると考えられるポリケチド合成酵素遺伝子(BPKS1)、シタロン脱水酵素遺伝子(BSCD1)及び1,3,8-THN還元酵素遺伝子(BTHR1)をクローニングし、各々の遺伝子の塩基配列及び推定アミノ酸配列を明らかにした。これら3つのメラニン合成系遺伝子破壊株はすべてメラニンを合成しないアルビノ変異株となったことから、3つのメラニン合成系遺伝子が、いずれも本菌のメラニン合成に必須の遺伝子であることが明らかとなった。次に、これら遺伝子の発現に及ぼす環境紫外線の影響を調査した結果、全ての遺伝子の発現が、環境紫外線を含む近紫外光によって特異的に増加した。そこで、近紫外光によるメラニン合成系遺伝子群の発現調節のメカニズムを明らかにするために、メラニン合成系遺伝子群の転写調節因子であるtranscriptional activatorをコードする遺伝子(BMR1)をクローニングし、解析を行なった。BMR1遺伝子破壊株はアルビノの形質を示し、3つのメラニン合成系遺伝子の発現が全く認められなかった。さらに、BMR1の発現も近紫外光照射により増加することが明らかとなった。以上の結果から、環境紫外線を含む近紫外光照射による3つのメラニン合成系遺伝子BPKS1、BSCD1及びBTHR1の転写量の増加は、近紫外光照射によって、メラニン合成系遺伝子群の転写調節因子をコードするBMR1の発現が増加したためであることが示された。
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