本研究は植物病原体であるウイルスと媒介者との相互作用を明らかにすることにより、ウイルス伝搬機構を理解することが目的である。最終年度は、ランえそ斑紋ウイルス(OFV)の遺伝子解析に加え、媒介者であるオンシツヒメハダニ側にも焦点をあて解析した。1.ウイルス構造蛋白質を調べたところ、49KはRNA結合能を持ち、26Kは核移行性を示した。さらに20Kは粒子形成に関わると考えられた。非構造タンパク質の38Kは細胞間移行タンパク質の可能性が示唆された。61K蛋白質はシーケンス解析から、ラブドウイルスのG蛋白質に類似性を示し、N末端にシグナル様配列、C末端には膜貫通ドメイン様配列を持つ推定膜蛋白質であった。61Kは成熟ウイルス粒子表面に提示されるスパイク蛋白質と推定されたが、OFVの成熟粒子は非常に少なく、その粒子からの検出は困難であった。一方、植物個体上で継代したウイルス株は、61Kに1塩基欠失や塩基置換が認められる場合もあり、この遺伝子は伝搬性に関与するウイルス因子である可能性が考えられる。2.媒介者であるオンシツヒメハダニの分類学的位置づけを行うため、ミトコンドリアcytochrome oxidase subunit I(MIT-CO1)の保存領域をクローニングし、その塩基配列解析を行った。さらに、ヒメハダニの組織・細胞内所見を電子顕微鏡レベルで観察したが、ダニ体内でのウイルスの分布様式等の詳細を解明するには至らなかった。ウイルス非伝搬ダニ系統の作出を目指し、媒介者であるヒメハダニに対して一定期間高温処理を施した結果、ウイルス伝搬能を喪失したと考えられるダニ系統が得られた。現在、その詳細を解析中である。今後、本研究を発展させるためには、ウイルスの感染性クローンや人工ミニゲノムの作製が急務であり、ウイルス遺伝子(とくに61K)とハダニとの相互作用について解析を進めていく必要がある。
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