研究概要 |
発癌性や変異原性を有する多環芳香族炭化水素(PAHs)のモデル化合物であるphenanthrene(PHN)の分解菌Shingobium sp.P2株はその代謝過程において、様々な生理活性を持つと報告されているcoumarin類を蓄積する[Pinyakong et al. (2000) FEMS Microbiol Lett., 191, 115-121]。特に水酸化されたcoumarin類の中には癌細胞に対する強い増殖抑制活性を持つものも報告され[Kawaii et al.(2001) Anticancer Res.,21,917-924]、微生物が生産する多様なcoumarin類の応用に興味が持たれている。本年度は、P2株のPHN代謝系酵素遺伝子を解析している過程で発見された5種類の水酸化酵素遺伝子のうち、PHN生育時に誘導される3種類の酸化酵素遺伝子について機能解析を行った。Terminal oxygenase large及びsmall subunit(AhdA1A2[c, d, e])ferredoxin(AhdA3)、ferredoxin reductase(AhdA4)の4つのタンパク質により水酸化活性を有するこれら酵素がcoumarin類に対して酸化することを期待したが、二環以上の芳香族化合物に対する活性はなく、これら全てがPHNの中間代謝物であるsalicylic acidからcatecholへの水酸化反応を行うsalicylate 1-hydroxylaseであることが示された。また、AhdA1A2[c, d, e]の各種methylsalicylic acidやchlorosalicylic acidに対する基質特異性が異なっていることも示された。他の酸化酵素(AhdA1A2[a, b])の機能解析については今後の課題だ。 一方、同様にPAHsのモデル化合物であるfluorene(FN)の分解菌Terrabacter sp. DBF63株は、FN代謝経路の推定から、P2株とは異なるcoumarin様化合物を蓄積する可能性が示唆されていた。本年度はDBF63株のFN代謝系酵素遺伝子と推測された遺伝子群をクローン化した大腸菌を用いて、FNからcoumarin類の生産を試みた。その結果、terminal oxygenase large及びsmall-subunit(DbfA1A2)、2種類のdehydrogenase reductases(FlnB, FlnC)の全てをクローン化した大腸菌において、FNから8-hydroxy-3, 4-benzocoumarin(HBC)の生産に成功した。今後、HBCの細胞増殖抑制活性などの生理活性が潜在していないか検索していく。
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