研究課題
平成14年度には有鞘細菌Sphaerotilus natansの鞘をヒドラジン分解して得た多糖(鞘多糖)の構造を確定した。すなわち、鞘多糖は→4)-β-D-GalNAcp-(1→4)-β-D-Glcp-(1→3)-β-D-GalNAcp-(1→4)-α-D-GalNAcp-(1→4)-α-D-GalNAcp-(1→を基本単位とする直鎖の塩基性ヘテロ多糖であった。平成15年度は、この結果を記した論文を公表するとともに、鞘多糖の分解をもたらす酵素(鞘多糖分解酵素)の遺伝子の取得・解析、および大腸菌での発現による機能の最終確認を行った。鞘多糖分解酵素遺伝子の由来は、鞘分解菌Paenibacillus koleovoransである。同細菌より得られた遺伝子は738アミノ酸残基からなるタンパク質をコードする2217塩基対で構成されていた。この遺伝子の周辺に鞘分解に関与すると思われる他の遺伝子は存在していなかった。解読した塩基配列は既知の多糖分解酵素遺伝子に部分的には類似性を示したが、全体的に有意な類似性を示す既知遺伝子はなかった。これは本遺伝子の新規性の高さによるものと思われる。本遺伝子を大腸菌に導入したところ、活性のあるタンパク質を発現させることができた。遺伝子の取得と発現に関する論文を公表した。これにともなって、同酵素は作用未同定の多糖リアーゼとして、糖関連酵素のデータベースであるCAZyに登録された。鞘多糖分解酵素の特徴は多糖の分解(エンド型分解)に伴って反応液の紫外線吸収量が増大する点である。このような現象は加水分解型の酵素にはみられず、脱離反応型酵素(リアーゼ)の特徴である。しかし、既知のエンド型多糖リアーゼはいずれもウロン酸を含む酸性多糖を基質とし、塩基性多糖に作用するものは知られていない。本酵素が全く新規な鞘多糖分解酵素であることを証明するためには遺伝子の新規性の証明のみでは不十分で、分解産物の構造を確定しなければならない。そこで、分解産物のプロトンNMR解析を行った。ただし、分解産物は空気中において不安定で、徐々に褐変がもたらされた。これは脱離反応によって生じた二重結合に由来する不安定性と考えられる。分解産物を嫌気下で取り扱えば変化は起こらず、良好なNMRスペクトルを得ることができた。興味深いことに、NMRスペクトルにおける低磁場域に、二重結合の存在を示すシグナルが観測された。このシグナルは非還元末端残基の4位であることが2次元プロトンNMRて予想された。もしこの予想が正しければ、鞘多糖分解酵素は新規の多糖リアーゼであり、新たな多糖リアーゼカテゴリーの存在を示すことができる。現在、異核2次元NMR解析を行って分解産物の構造の確定を目指している。
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