研究概要 |
これまでに,胃ガンの糖鎖抗原として,α1,4GlcNAc含有糖鎖の存在が報告されている.本糖鎖抗原はガンの発生機序やガンの診断等の側面から注目されている.また,腸内病原性細菌の感染においても本糖鎖の関与の可能性が示唆されている.本研究課題では,本糖鎖抗原の酵素合成を行うことを目的とし,α1,4-N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼ(α4GnT)のスクリーニングを行った.その結果,ウマ血清中に本酵素活性を見出した.そこで,ウマ血清の80%硫安沈殿画分を本α4GnTの粗酵素源として,供与体基質UDP-GlcNAc,受容体基質としてGalβ-pNP, Galβ1, 3Ga1NAcα-pNP, Galβ1,4GlcNAcβ-pNP, Ga1β1,3GalNAcβ-pNP, Galβ1,3GlcNAcβ-pNPを用いてα1,4GlcNAc含有糖鎖抗原の合成を試みた.その結果,糖転移生成物としてそれぞれGlcNAcα1,4Galβ-pNP, GlcNAcα1,4Galβ1,3GalNAcα-pNP, GlcNAcα1,4Galβ1,4GlcNAcβ-pNP, GlcNAcα1,4Galβ1,3GalNAcβ-pNP, GlcNAcα1,4Galβ1,3GlcNAcβ-pNPを供与体基質あたり4.7%,4.2%,0.65%,1.3%,1.7%の収率で得ることができた.本酵素のそれぞれの受容体基質に対する比活性を比較した結果,コア1(Galβ1,3GalNAcα-)に対して高い反応性を示した.また,アクセプターにコア1の構造異性体であるGalβ1,3GalNAcβ-pNPを用いると比活性が半分以下に減少したことから,本酵素の基質認識は糖鎖骨格だけでなく糖鎖とアグリコン部分も深く関与している可能性が示唆された. さらに,本酵素の基質特異性を詳細に検討することを目的とし,ウマ血清からのα4GnTの精製を試みた.ウマ血清80%硫安沈殿画分をCon Aアガロースカラムに供し,非吸着部を溶出後,順次0.8Mグルコース,0.2Mメチルα-マンノシドにより溶出した.各画分は,限外ろ過による濃縮後,凍結乾燥した後にGalβ1,4GlcNAcβ-pNPを受容体基質として酵素活性の測定を行った.その結果,α4GnT活性は,非吸着部に回収され,吸着部には活性が検出されなかった.また,本酵素と供与体基質を共有するβ1,3-N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼ(β3GnT)活性は,吸着部である0.8Mグルコースおよび0.2Mメチルα-マンノシドに回収された.この様に,α1,4GlcNAc含有糖鎖の酵素合成の大きな障害となるβ3GnT活性を一段階のカラム操作でα4GnT活性から分離することに成功した.
|