生物はいろいろな環境に適応し生命活動を営んでおり、遺伝子産物であるタンパク質、特に酵素もその環境に適応していることが多い。これらの極限環境に適応した酵素の機能や安定性と構造との関係を調べることにより、生物の環境適応に対して分子レベルでの知見が得られるばかりでなく、これをタンパク質工学的に応用することで人工的に、より有用な酵素を作成することが可能になると我々は考えている。 本研究では食品等に酵素を利用することを視野に入れ、南極海氷下に生息している昭和ギスから生命活動に必要なエネルギーを産出するための酵素群の中から乳酸脱水素酵素(lactate dehydrogenase = LDH)を選んだ。この酵素のX線結晶解析を行い、本酵素の低温適応機能の解明を目的としている。まず、昭和ギスは以前南極の昭和基地周辺の海域で採取し、-80℃で凍結保存したものを用いて、骨格筋を磨り潰し、抽出液で抽出。硫安による塩析を行い、活性のある分画を得る。アフィニティーのクロマトグラフィーを用いて精製した。電気泳動により精製の確認を行った結果、ほぼ単一の酵素が得られた。それぞれのLDHは結晶化に適切なタンパク質濃度(約10mg/ml)にするために遠心機を用いた限外ろ過で濃縮し、結晶条件はpH5.5〜8.5、沈殿剤(塩、PEG)、温度の3つを加味してマイクロバッチ法を用いてスクリーニングを行った。その結果、いくつかの条件で微結晶を確認することができた。その中の1つの条件にできた結晶に関してX線回折測定を行った。その結果、正方晶系の結晶であったが、良い回折データは得られなかった。今後はさらなる結晶化条件の検討を行い、X線回折測定さらに構造解析につなげていく予定である。
|