本研究は南極海氷下に生息している昭和ギスの骨格筋乳酸脱水素酵素(lactate dehydrogenase=LDH)のX線結晶解析を行い、本酵素の低温適応機能の解明を目的としている。LDHは酸素が利用できない条件下でATPを産生する際に解糖系に必要なNAD^+の再生という重要な役割を果たしている。我々はこれまでに3つの異なる温度環境に生息する生物の骨格筋より単一のM型(筋肉型)LDHを精製した。その3つのLDHは南極海氷下に生息している昭和ギス、生息環境温度が季節により変化するコイと恒温動物であるウサギ由来である。昭和ギスLDHの酵素活性に低温環境に適応した温度特性がみられるか調べた結果、昭和ギスLDHは他のLDHと比較して、k_<cat>/K_mの至適温度が低く、低い活性化エネルギーを示し、大きなk_<cat>を有していることがわかった。しかし、1次構造からでは温度環境適応の要因となる明らかな構造的特徴を見出すことができなかった。本研究は高次構造の比較を行うために昭和ギスのLDHだけではなくコイのLDHのX線結晶解析も行い、温度環境適応の要因を探る。 平成15年度 (1)昭和ギス及びコイのLDHの結晶化 LDHの結晶化はpH5.5〜8.5、沈殿剤、温度の3つを加味してマイクロバッチ法を用いてスクリーニングを行った結果、いくつかの条件で結晶化観察された。 (2)昭和ギス及びコイのLDHのX線回折測定 (1)でできた結晶の不凍結条件を検討し、X線回折測定を行った結果、昭和ギスのLDHは2.8Å分解能、コイのLDHは2.3Å分解能のデータが得られた。 (3)昭和ギス及びコイのLDHの結晶解析 ツノザメのLDHの構造を基に(2)で得られたデータの構造解析を行った結果、昭和ギスのLDHについてはデータが悪く、大まかな故造しか得られなかったが、コイのLDHは良好な結果が得られた。 (4)コイのLDHの基質アナログ及び補酵素との複合体の結晶解析 コイの複合体について(1)〜(3)を行い結果、3.0Å分解能の構造解析の良好な結果が得られた。
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