本研究は、pH応答性GFP変異体をpHプローブとして利用して菌体内pHの動的変化を調べ、Sha輸送系の機能と関連づけることが目的である。本年度は、pHプローブの構築とpHキャリブレーションを行い、大腸菌の菌体内pHの挙動について検討した。 まずpH応答性を持たないYFP変異体(Venus)に変異を導入し、Venus^*を得た。これにpH非応答性のGFPuvを連結して、pH-Venusを構築した。pH-VenusはGFPuv由来(390nm)とVenus^*由来(495nm)の2っの励起波長を持ち、その520nm蛍光強度比(R_<495/390>)は酸性側で低く、アルカリ側で高くなる傾向を示す。pH-Venus蛋白質をGST融合蛋白質として発現させ、グルタチオンセファロースカラムによりアフイニティー精製した。精製pH-Venus蛋白質を用いてpHキャリブレーションを行い、pH応答性を確認した。次に、pH-VenusをIPTG存在下で安定に発現するPspacプロモーター下流に連結して大腸菌細胞内で発現させ、菌体内pHの時間変化を追跡した。CSM培地で培養したときの大腸菌の菌体内pHは、対数増殖期ではややアルカリ(pH8)であり、定常期に入るとpH7.5まで酸性化が見られた。この間、外部pH変化は0.2以下と小さいものであった。またLB培地では、培養の進行に伴い外部pH変化が大きくアルカリ化するのに対し、菌体内pHは比較的安定している傾向が認められた。以上の結果から、菌体内pHは、「外部pH変化より小さく中性付近で安定している」という従来の考えに反して予想以上に動的に変化しており、またその挙動は培地条件により異なることが明らかとなった。 今後は、pHプローブに適切なアンカー部位を付加することにより局所的pHを測定し、また別の細菌での挙動を調べて比較を行う予定である。
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