本研究は、pH感受性GFP変異体をpHプローブとして用いて、動的変化や局所的変化を含めた菌体内pHに関する詳細な情報を得ることを目的としている。本年度は、Bacillus属細菌におけるpH測定系の確立と、大腸菌の膜近傍pHの測定を行った。枯草菌や好アルカリ性菌などのBacillus属細菌における本pHプローブの発現量は大腸菌に比べて低く、そのままでは精度の良い測定が困難であるため、プロモーター改変等による発現量の上昇を試みた。枯草菌において構成的に高発現するS10プロモーターと統計学的に最適と予想されるリボソーム結合部位をpHプローブ遺伝子の上流に付加し、多コピーベクターpGETS103上で発現させた。その結果、Pspacプロモーターを用いた従来の場合と比べて数倍の蛍光強度の上昇が認められた。今後この系を用いて、大腸菌と枯草菌のpH恒常性を比較検討することが可能である。 膜近傍pHの測定を目的として、大腸菌由来の様々な膜蛋白質とpHプローブとの融合蛋白質の発現を試みた。二次構造予測プログラムから膜貫通領域と予想される部分を抽出し、PHプローブのN末端側に融合・発現させた。その結果、浸透圧センサー蛋白質EnvZのN末側領域240アミノ酸残基を付加した場合に有意な蛍光強度が観察された。またpHプローブが膜画分に局在することを、ウェスタン解析により確認した。この系を用いて大腸菌の細胞質と膜近傍のpH恒常性を比較したところ、膜近傍pHは細胞質pHよりもややアルカリである傾向が認められた。 本研究により、従来の方法では不可能であった菌体内pHの動的変化や局所的変化を調べることが可能になった。今後は、高い菌体濃度による蛍光の内部遮蔽効果など細菌特有の問題を解決しつつ、より良い系を確立していくことが課題である。
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