蛋白質工学やドラッグデザインなど、医学、薬学、工学方面で行われているコンピュータを用いた分子モデリングの手法を、環境汚染物質を分解する微生物分解酵素の分解機構解明に採り入れ、現行よりもより高機能な分解酵素を創り出すといったアプローチを行い、バイオレメディエーション研究に新たな発展がみられないかと考え、本研究課題を行った。 ターゲットとする酵素は、内分泌攪乱作用化学物質ペンタクロロフェノール(PCP)分解微生物Sphingomonas Chlorophenolica ATCC39723から単離された3種類のPCP分解酵素の1種で、PCP分解過程においてPCPをテトラクロロハイドロキノンに酸化する4-モノオキシゲナーゼであるPcpBである。PCP分解過程(3段階)のうちPcpBのステップが律速段階だと言われている。また、幅広い基質特異性を持つので、酵素のデザインを行うことを考えた場合、改良の余地があるのではないかと考え今回の研究のためのターゲットに選ぶことにした。なお、PcpBはアミノ酸の1次配列は報告されているものの、X線結晶構造解析、NMRなどによる立体構造の報告はされていない。 そこで、ホモロジーモデリングと分子動力学計算による、PcpBの立体構造を構築し、得られた立体構造から活性アミノ酸残基と反応機構の推定を行った。次に、推測された活性アミノ酸残基部分に実際に変異を導入した変異酵素を作成、精製し、野生型との相対的な活性を比較した。その結果、計算で得られたモデル構造の妥当性を示唆する結果が得られた。 現在、速度論的なパラメータ(Km、kcat)の決定によるより厳密な反応性の議論や、CDスペクトルによる変異酵素の構造変化の観測などを行っており、今後は今回得られたPcpBの立体構造を元に、本課題の目的であるペンタクロロアニリンの分解可能なPcpBを作成できるか検討する予定である。
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