本研究は、糖尿病時やその予備的な段階で認められる生体内の酸化ストレスの上昇と肝臓での糖代謝調節の不良との関係を個体レベル、細胞レベルから明らかにすることを目的としている。これらの解析は食事性抗酸化物質の糖代謝コントロール改善への有効性の検討や新たな食品利用に役立つものと考えている。本年は上記目的に基づき、次のような研究成果を得た。個体での影響を見るために鉄投与モデルラットを用いた検討を行なった結果、鉄投与による酸化ストレスの負荷は食後の肝臓グルコキナーゼ遺伝子発現上昇を障害することが明らかとなった。このときIRS-1などのインスリンシグナルの応答低下を伴うことから、グルコキナーゼ遺伝子発現の障害の少なくとも一部はインスリンシグナルへの影響を介したものであると考えられた。以上の結果は、生体酸化ストレスの上昇は肝臓での食後の糖利用に影響を与え、食事に伴って上昇する血糖の適正な調節に影響を与える可能性が考えられた。 糖尿病態では正常に比べ、空腹時に肝臓から体循環への糖放出が大きいことが指摘されている。そこで次に空腹時の肝臓での糖代謝調節に酸化ストレスが与える影響を検討した。その結果、酸化ストレスの負荷により血中インスリン濃度の低下および肝臓PEPCK遺伝子発現の上昇がおこる可能性が明らかになった。肝臓由来細胞であるH411Eを用いて、酸化ストレスとPEPCK遺伝子発現上昇の関係をより詳細に検討した結果、酸化ストレス負荷が直接PEPCK遺伝子発現上昇の要因となりうることを見いだした。このことは酸化ストレスの増加は糖の利用機能の低下を招くだけでなく、内在的に高血糖を誘発しやすくなることを示しており、糖尿病時もしくは予備的な段階での血糖調節に酸化ストレスの抑制が重要である可能性を示しているものと考えられた。
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