申請者は脂質性メディエーターの産生機構の解明や産生に関わる酵素類に関して研究を進めている。最近、新規な脂質性メディエーターである2-AG(2-アラキドノイルグリセロール)の産生に関わると推定されるDGリパーゼの精製や候補遺伝子である新規リパーゼ様遺伝子のクローニングに成功した。しかしながら、一般にこのような脂質代謝酵素はin vitroでのアッセイでは多くの基質を代謝する能力を有しているが、生体内での真の基質を見極めることは難しい。そこで、本研究では、このような問題点を克服するために、クローニングした新規脂質代謝関連遺伝子産物が生体内でどのような脂質分子を基質として、どのような触媒反応を担当するのかという点に関して、遺伝子を導入した細胞の脂質プロファイルの解析(リピドーム解析:生体中の脂質成分を一括定量比較解析する手法)を用いて解析する。また、この解析によって、導入した遺伝子産物が脂質性メディエーター類の産生を引き起こす事が確認された後、この細胞または共存培養細胞(ターゲット細胞)のタンパク質リン酸化のプロファイルを抗リン酸化タンパク質抗体を用いたプロテオーム解析によって解析し、導入した遺伝子産物が産生した脂質性メディエーターが引き起こす細胞内応答を推定する。このようなアプローチによって新規リパーゼ様遺伝子をはじめとして新規な脂質代謝酵素のクローニングと生理機能解析を行う。本年度は、本研究を推進するのに必要となる基盤技術の確立・整備を行った。すなわち、(1)脂質成分を簡便に一括定量比較する解析方法(リピドーム解析)の確立と改良、(2)2次元電気泳動法を用いたプロテオーム解析による細胞内情報伝達機構の解析方法の検討、さらに(3)これまでにクローニングに成功したDGリパーゼ様分子群の発現組織や発現オルガネラ、ゲノムマッピング、推定SNPsの有無などの解析を行った。
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