研究概要 |
一般的にタンパク質は無味であるが、例外的に甘味を呈するタンパク質が存在する。ソーマチン、モネリンなどは古くから甘味を呈することが知られているが、それら以外にも塩基性タンパク質の中には甘味を呈するタンパク質が存在することを見出した。そこでより詳細に塩基性度と甘味特性の関連を検討するため、甘味タンパク質リゾチームや、無味であるα-ラクトアルブミン、オボアルブミンを用い化学修飾を行うことで、その等電点を変化させることにより甘味に対してどのような影響を与えるのか検討した。pIが10.5以上である1残基、2残基修飾PLPリゾチームの甘味閾値は未修飾リゾチームとほぼ同等であったが、pIが8.7である3残基修飾PLPリゾチームの甘味閾値は上昇した。またグリシンメチルエステル化し等電点を増加させたα-ラクトアルブミン、オボアルブミンも甘味を呈し、そのpIはそれぞれ、9.7、9.5であった。また、タウリン化したオボアルブミンは甘味を呈さなかったが、そのpIは6前後であった。このことからタンパク質の塩基性度と甘味発現には相関があることが示唆された。これらの結果を踏まえリゾチームの甘味発現に関わる部位を特定するために、各種変異体を系統的に作成し甘味発現に対する影響を検討した。卵白リゾチームは等電点11の塩基性タンパク質であり、分子内にリジン残基6残基、アルギニン残基11残基もつ。そこでこれらリジン、アルギニン残基を他のアミノ酸残基に置換した変異体を作製し、甘味に与える影響を検討した。まずArg45,Arg68が含まれる面のArgにAlaの変異を施しても甘味閾値に影響を与えなかった。一方、Arg14,Arg21,Arg73,Lys13,Lys96,Lys97が含まれる面のLysにArgの変異を施しても甘味閾値に影響を与えなかったが、ArgにAla, LysにAlaの変異を導入することにより、甘味閾値が上昇したことから、この領域に含まれる塩基性アミノ酸残基がリゾチームの甘味発現に深い影響を与えることが示唆された。
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