エンテロスタインはprocolipaseがトリプシンによりcolipaseに変換される際にそのN末端から遊離する5残基のペプチドであり、高脂肪食の摂取を選択的に抑制することが知られている。エンテロスタチンの配列はラットでは、VPDPR、VPGPR、APGPRの3種類であるが、ヒトおよびマウスではAPGPRのみである。 我々は、これまでにVPDPRが抗鎮痛作用、抗健忘作用および血清コレステロール低下作用等の新しい作用を有することを見出してきた。そこで、本年度はヒト型のAPGPRも同様な作用を示すかどうかを検討した。またAPGPRの摂食抑制作用はCCK1アンタゴニスト(lorglumide)の投与により阻害されることが報告されており、APGPRの各種作用においてCCKの関与も検討した。 (1)血清コレステロール低下作用 APGPRは経口投与により高コレステロール・コール酸食投与マウスに対して血清コレステロール低下作用を有することを見出した。その用量は、VPDPRと同じく100mg/kgであった。APGPRおよびVPDPRのコレステロール低下作用は、lorglumideの投与により、ともに阻害されたことから、CCK1レセプターの関与が示唆された。 (2)抗鎮痛作用 VPDPRは100nmolの脳室内投与によりμ-オピオイドであるモルヒネの鎮痛作用を有意に抑制したのに対し、APGPRはその1/10量の10nmolで抗鎮痛作用を示した。VPDPRの抗鎮痛作用はコルチコステロンを介した作用であるが、APGPRは介さないことを見出した。 一方、lorglumideによりAPGPRの抗鎮痛作用は阻害された。CCKは抗オピオイド作用を持ち、モルヒネの鎮痛作用を抑制することが知られている。このことから、APGPRの抗鎮痛作用は摂食抑制作用と同様にCCKを介したものであると考えられる。
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