食事脂肪酸の種類と量は各種の生活習慣病の防御機構と密接な関係を有していることから、細胞内脂質バランスにおける脂肪酸の防御機構が注目されている。アラキドン酸、エイコサペンタエン酸(EPA)およびドコサヘキサエン酸(DHA)などの多価不飽和脂肪酸(PUFA)は、生体膜の重要な構成成分である。これらPUFAは脂肪酸長鎖不飽和化反応により生成されるが、哺乳類ではこの反応の律速段階は、Δ6不飽和化酵素(D6D)により行われる。D6D活性が栄養環境や個体の生理状態により変化することは多数の研究者によって報告されてきた。さらにこの過程にはΔ5不飽和化酵素(D5D)および別の系列の不飽和化反応ではstearyl-CoA不飽和化酵素(SCD1および2)が関与している。本研究では、高脂血症治療薬であるフイブレート系薬剤、ジェンフィブロジルをラットに投与した実験および肝臓での不飽和化反応を抑制すると報告される大豆タンパク質食を摂食させた実験を行って、それぞれSCD1、D5DおよびD6DのmRNA量の違いを指標として、脂肪酸不飽和化酵素遺伝子の発現の調節する分子種の予測を行った。 結論としてD6D遺伝子発現の食事およびジェンフィブロジルによる制御の機構を示すとD6Dの脂肪酸不飽和化反応の可能性のある分子は3つに大別される。(1)高度多価不飽和脂肪酸、(2)タンパク質源の違いによる細胞内情報伝達物質および(3)PPARのリガンドである。それぞれの物質は違った段階で制御を行っているようである。それぞれの段階でどのような分子が作用するかは、今後検討していきたいと考えている。 D5DはD6Dと同じ制御機構、すなわち同じ分子種により制御されている可能性がある。しかし、脂肪酸合成酵素等で食事からよりも生体内で合成されるパルミチン酸を基質とするSCD1の遺怯子の発現は別の制御機構により制御されており、D6Dの制御とは違う分子がその反応に関わっている可能性がある。
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