グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)は細胞質における解糖系酵素として機能するだけでなく、近年、膜や顆粒画分そして核においてエンドサイトーシス、小胞輸送、微小管重合、RNA輸送、DNA修復や複製、アポトーシス、神経変性疾患に関与する多機能タンパク質であることが報告されている。またハウスキーピング遺伝子であるGAPDHは、解糖系機能を活性化するために血管内皮細胞において低酸素によって誘導発現されると推測されている。しかし今回、低酸素環境に曝露した血管内皮細胞において細胞質だけでなく、核と顆粒画分においてGAPDHタンパク質量が増加したが、GAPDH活性はすべての画分でGAPDHタンパク質量の増加に比例して上昇しなかった。さらにGAPDHは一酸化窒素によって失活し、誘導型NO合成酵素(iNOS)は血管内皮細胞で低酸素によって誘導される。しかし低酸素下における血管内皮細胞で生成されるNO量は増加しなかったので、低酸素下でのGAPDHの活性低下にはNOは関与していないと推測された。これらの結果は、GAPDHの解糖系酵素以外の機能が低酸素下においても必要とされることを示唆している。さらにGAPDHの新規機能を解明するために、酵母Two-hybrid法により、GAPDHと細胞内で相互作用するタンパク質を検索して、Ran結合タンパク質M(RanBPM)をその候補タンパク質として見出した。GAPDHとRanBPMの結合は、大腸菌で作製した組み換え体を用いたin vitroアッセイ法と動物細胞で発現させた組み換え体を用いたin vivoアッセイ法により証明した。さらに酵母in vivoアッセイ法により、GAPDHと結合するRanBPMの結合領域がRanBPMのSPRYモチーフ領域ではなく、LisH-CTLHモチーフ領域であると同定した。
|